ギビル
「で、……どうして俺を襲ってきた?」
一時間ほどして女の混乱は、どうにか治まった。
幸一の声音は、あのような事態の後でもいつもどおりの無感動なもの。しかし、聞きようによっては、これは凄まじい怒りを迸らせているようにも思えるだろう。状況次第によっては。
「いやぁ……そのぉ……」
女は俯き、口をモゴモゴとさせるている。無理も無い。何しろ、あの時、こいつは幸一に対し、明らかに殺意をもって攻撃をしかけてきたのだから。しかもその後は変態、チカン扱いだ。
だが、『助かった』か……『助けてくれてありがとう』ならわかるが……『助かった』というのはどういう意味だ?
意を決したのか、女は唐突に顔をあげ、
「貴方……多分、魔術師だと思うんだけど……悪魔とか、神の存在って信じているよね?! 魔術師ならしゅく……」
……これが普通の人間であるなら一笑に付すか、あるいはこの時点で女と二度と話そうとはしないだろう。
女の言葉を遮るように、静かに幸一は口を開いた。
「……神は知らんが、悪魔の存在なら確認済みだ」
だろうな……オレが巣食っているのだから。
「え? 信じている、じゃなくて?」
「確認済みだ、悪魔だけなら」
女は鳩が豆鉄砲を受けたような顔つきになると、
「覚えていないのか? 昨日の俺は、左半身に不気味な模様が浮かんでいたはずだが」
「え、えぇぇ! ま、まさか! あ、あれって私の見間違いじゃなかったの?」
幸一を指差し、動揺のあまり指差す腕を上下させている。呆れるくらいよく通る叫びだな。